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v0.28.9 — 本稿は建設中です。理論の構成、命題、実証の結論はいずれも変更されうるものです。概要

Chapter 1
序論:現金の時間構造を変数に選ぶ

1.1 問題設定

企業を記述する標準的な変数は、売上高、利益率、市場占有率である。 本稿はこれらを用いず、現金の時間構造からビジネスモデルを記述する。

この選択には理由がある。企業の存続条件は損益ではなく現金残高に対する制約として与えられ、 しかもその制約は期待値ではなく経路ごとに課される(第4.2節)。 存続と成長を扱う枠組みは、現金の時間構造を第一級の対象としなければならない。

標準的な変数を捨てるわけではない。 損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書は、 本稿が構成する対象を添字方向に潰した射影として現れる(表2.1)。 本稿は会計と別の量を置くのではなく、会計が潰している添字を残す。

1.2 本稿の構成と読み方

本稿は六部からなる。

部 表題

内容

I 理論

定義、命題、証明。以降のすべての基礎

II 写像の空間

Φ の全空間(28類型)、制約下の部分空間、その極限、情報構造を差し替えた場合

III 方法論

観測に接続する五段階、選択バイアスの扱い、検証障害の分類

IV 実証

理論量の測定対応と四領域の検証

V 総括

到達点と未解決問題

VI 付録

方法論の証明、記号一覧、既存理論との対応、データ源、事前登録、改訂履歴

表 1.1: 本稿の部構成。

第I部と第II部は演繹的であり、 第III部は理論と実証を接続する手続きを与える。

第II部は三つの段階からなる。 まず Φ の自由度から生成される全空間を列挙し(第7章)、 次に資本と人手の制約を課したときの部分空間を求め(第8章)、 最後に運営者を除去する極限を扱う(第9章)。 いずれも演繹であり、実証ではない。

独立した「応用」部を設けなかったのは意図的である。 応用が正当化されるのは理論が実証を経た後であり、本稿の実証は完結していない。 制約下の演繹は応用ではなく、写像の空間を制約で切り出す操作として 第II部に置いた。

第IV部の冒頭に第14章を置き、 理論で導入した記号のそれぞれについて、 実測できた値と測定できなかった事実を一覧した。 以降の各章にも冒頭に「本章で扱う理論量」の表を付し、 どの記号がどこで測られたかを追えるようにしてある。

読者の関心に応じて、次の経路を推奨する。

各節には可能な限り数値例を付した。記号一覧は付録A.4.1にある。

1.3 本稿が主張しないこと

誤読を避けるため、先に範囲を限定する。

第一に、本稿は予測理論ではない。第IV部で事前に固定した含意は、 その多くが棄却された。本稿の枠組みは記述の道具として機能するが、 記述された量が何を予測するかについて、本稿は確立した結果を持たない。

それにもかかわらず本稿は22の含意を事前に固定している。 理由は二つある。

一つは、記述の枠組みが観測されたどんな事実にも事後の説明を与えられるためである。 説明できることは、枠組みが正しいことの証拠にならない。 観測の前に含意を文章として固定し、外れたものを外れたまま残さなければ、 枠組みが働いた場合と、自分が後から筋を通した場合とを区別できない。 実際に後付けの物語を採用しかけた箇所は第19.2節に挙げる。 固定した含意は枠組みの主張ではなく、自分の解釈に課した拘束である。

もう一つは、含意が外れることと枠組みが棄却されることが別だからである。 CCC、κ、Φ という記述が機能するかどうかと、 それらの量が何を予測するかは、別の問いである。 外れた含意は後者についての推測を否定するが、前者を否定しない (第16.13節)。

第二に、本稿は規範的でない。どの Φ が望ましいかを論じず、 どの Φ が制約の下で実現可能かのみを論じる。

第三に、個々の構成要素の多くは既存理論に対応がある。 付録A.4.1を三層に分け、 各項を説明する既存理論、それらを接続する部分、本稿の整理を区別した。 本稿の寄与は接続にあり、要素の新規性にはない。