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v0.28.9 — 本稿は建設中です。理論の構成、命題、実証の結論はいずれも変更されうるものです。概要

Chapter 7
Φ の類型カタログ:七族二八類型

7.1 構成方針

第2.5節の六自由度から生成される空間のうち、 反復的に現れる点および領域を七族に整理して列挙する。 各類型について、信用ポジション κ の符号、決済の性質、代表例を示す。 本カタログは網羅性を主張するものではなく、調査対象の選定に用いる作業用の分類である。

7.2 族1:単発交換

δ が一回、π が一回で対応する形式。

番号 類型

κ / 決済の性質

例

1-1 即時交換

≈ 0 / δ と同時

小売、飲食、券売機

1-2 前受単発

< 0 / δ に先行

受注生産、結婚式、チケット、CF

1-3 後払単発

> 0 / δ に後行

B2B掛売、請求書払い

1-4 分割後払

> 0(長期)/ δ 一回を π 多数に分解

割賦、BNPL、住宅ローン

表 7.1: 族1:単発交換の類型一覧。

1-4 のみ構造が質的に異なる。δ が一時点であるのに π を長期に展開しており、 第4.2節の割引因子の差を単独で商品化した形式である。 余剰源は ϕbarg と ϕcog に偏る。

7.3 族2:継続アクセス

権利 δ¯ を販売し、δ が行使される形式。認知余剰の主要な所在。

番号 類型

κ / 決済の性質

例

2-1 定額アクセス

年払 < 0 / 月末払 > 0、π = F

SaaS、会員制小売、施設利用型

2-2 従量

≈ 0 / π = pδ

電気、クラウド、通信

2-3 二部料金

混合 / π = F + pδ

携帯、会費+商品、予約割引

2-4 プリペイド

< 0 / π 先行、δ の時期は顧客裁量

ギフトカード、回数券、交通系IC

2-5 オプション・保証

< 0 / π 先行、δ は行使時のみ

延長保証、キャンセル可予約、融資枠

表 7.2: 族2:継続アクセスの類型一覧。

2-1 は容量制約の有無により二分される(第2.7節の命題)。 2-4 と 2-5 は形式的にオプションの売却であり、事業者は売り持ちの状態にある。

7.4 族3:資産の時間貸し

番号 類型

κ / 決済の性質

例

3-1 リース・レンタル

資産が先行 / 時間比例

機械リース、不動産賃貸

3-2 共用資産

資産が先行 / 稼働に連動

宿泊、カーシェア、コワーキング

3-3 譲渡+長期回収

> 0(大)/ 所有権移転後も π が継続

販売金融、設備ファイナンス

表 7.3: 族3:資産の時間貸しの類型一覧。

この族の特徴は κ ではなく式(3.8)の A が支配的になる点にある。 3-2 は容量制約が明示的に存在するため、稼働率が実行可能性を決定する。

7.5 族4:補完財による回収

δ を分割し、π を意図的に偏らせる形式。

番号 類型

κ / 決済の性質

例

4-1 ロックイン消耗品

初期 > 0 / δ1 原価割れ、δ2 で回収

印刷機器、抽出機器、家庭用ゲーム機

4-2 フリーミアム

初期 > 0 / 一部に π = 0、転換分から回収

ストレージ、業務チャット、モバイルゲーム

4-3 本体補填+金融

> 0 / 機器を割引し継続料で回収

通信キャリア、自動車販売金融

表 7.4: 族4:補完財による回収の類型一覧。

この族は定義上、初期に κ > 0 を意図的に作り出す。 顧客獲得費用の回収期間が長期化すると、族全体が資本市場に依存することになる。

7.6 族5:成果・状態連動

π が ω に可測な形式。第4章の議論が直接効く。

番号 類型

κ / 決済の性質

例

5-1 成果報酬

> 0(大)/ π = h(結果)

人材紹介、M&A助言

5-2 レベニューシェア

> 0 / π = 顧客売上 × 率

フランチャイズ、アプリ流通、代理店

5-3 コストプラス

中間 / π = 実費 + マージン

一部の建設、コンサル、公共調達

5-4 保険引受

< 0 / π 先取り、δ が ω 依存

生損保、保証

5-5 IPライセンス

混合 / ロイヤルティ、δ の限界費用ゼロ

半導体IP、キャラクター許諾、特許

表 7.5: 族5:成果・状態連動の類型一覧。

5-1 と 5-2 は努力が観測できないことによるリスク移転、 5-3 は結果が不確実であることによる逆向きの移転である(第4章の注)。 5-4 のみ族内で時間構造が鏡像になっている。

7.7 族6:媒介

第三者間の取引に介在する形式。

番号 類型

κ / 決済の性質

例

6-1 取引額手数料

≈ 0 / 流通額 × 率

証券、不動産仲介、マーケットプレイス

6-2 エスクロー預り

< 0(他人の資金)/ 一時預かり後に送金

決済代行、宿泊仲介、旅行

6-3 スプレッド

> 0(在庫)/ 買値と売値の差

卸、両替、マーケットメイク

6-4 機会課金

< 0 / 取引ではなく掲載・接触に課金

求人広告、検索連動広告

表 7.6: 族6:媒介の類型一覧。

6-2 の κ は自己資金ではない。式(3.8)上は他の負の κ と同位置に現れるが、 流量減少時に急速に流出する点で性質が異なる。 6-1 と 6-3 の差は在庫リスクを保有するかどうかにあり、これも第4章の移転の問題である。

7.8 族7:受益者と支払者の分離

添字 i を動かす操作そのもの。

番号 類型

κ / 決済の性質

例

7-1 広告

混合 / 受益者 π = 0、第三者が支払う

放送、検索、SNS

7-2 クロスサブシディ

混合 / 片側無料、反対側から回収

両面市場の片面課金

7-3 公的支払

> 0 / 保険者・政府が支払う

医療、介護、教育

7-4 寄付・支援

< 0 / 対価関係が明示されない

支援型課金、投げ銭、非営利

表 7.7: 族7:受益者と支払者の分離の類型一覧。

7-3 は特殊であり、支払者が価格を規定するため Φ の設計自由度が制度層に吸収されている。 公定価格の改定により κ と m が同時に外生的に変化する。

7.9 類型への割り当て

カタログを実証に用いるには、観測された Φ をどの類型に割り当てるかの規則が要る。 規則を事後に決めれば、結論に合うように割り当てられる。 以下に規則を定める。

割り当てに必要な情報は第2.5節の自由度であり、 第11.5節で Φ ごとに記録すべき変数として一覧する量と一致する。

族の判定条件は排他的でない。 したがって判定の順序を固定する。

順 判定

該当すれば

1 受益者と支払者が異なるか(自由度(3))

族7

2 第三者間の取引に介在するか

族6

3 π が ω に可測か(自由度(4))

族5

4 履行を分割し π を意図的に偏らせるか

族4

5 資産が先行し、時間または稼働に比例して回収するか

族3

6 反復性があるか(自由度(6))

族2、なければ族1

表 7.8: 族の判定順序。上から順に適用し、最初に該当した族を採る。

族が定まれば、族内の番号は自由度(1)(時間関係)、 自由度(2)(依存形式)、自由度(5)(権利と行使の分離)が指定する。

注 7.1 (順序に依存する割り当てがある). 表7.8の順序を変えれば割り当てが変わる Φ が存在する。

アプリ流通の手数料は、流通額に率を乗じる点で 6-1(取引額手数料)に当てはまり、 販売者の売上に連動する点で 5-2(レベニューシェア)にも当てはまる。 上の順序では族6が先に判定される。

順序の選択に演繹的な根拠はない。 主体の構成を決済形式より先に判定するという 方針によるものであり、規約である。 規約であるからこそ事前に固定しておく必要がある。

注 7.2 (複合契約の扱い). 第7.10.2節のとおり、実際の契約は複数類型の合成であることが多い。 この場合はまず Φ を成分に分解し、各成分に表7.8を適用する。

分解の単位は、履行と決済の対応が一組閉じる範囲とする。 機器の販売と消耗品の供給は別の対応であるから二成分に分かれ、 それぞれ 1-1 と 2-2 に割り当てたうえで、合成として 4-1 と記す。

7.10 カタログの限界

以上二八類型は網羅的ではない。欠落として検討した三つのうち、 二つは既存類型で記述できる。

7.10.1 労働側の Φ:族を追加しない

雇用契約もまた履行と決済の写像である。ただし方向が逆であり、 労働者が δ を提供し、企業が π を支払う。 第2章の X の符号規約は企業への流入を正とするため、 カタログの二八類型はすべて企業が δ を提供する側を想定している。

しかし視点を労働者側に置けば、労働者は δ を提供する事業者である。 第8章で扱う一人事業と同じ構造であり、 カタログはそのまま適用できる。

契約形態

該当する類型

κL
月給・後払い

1-3 後払単発の反復

> 0(労働者が与信)
日払い・週払い

1-1 即時交換

≈ 0
前借り・支度金

1-2 前受単発

< 0
賞与

5-1 成果報酬

> 0
持分報酬

5-2 レベニューシェア

> 0(極大)
退職金

1-4 分割後払

> 0(超長期)
表 7.9: 労働者側から見た契約形態と該当類型の対応。

新たな族は不要である。 労働者は族1と族5を組み合わせた複合契約を結んでいる。

注 7.3 (「特殊例」ではなく制約の異なる対象である). 表7.9は視点を反転すればカタログが適用できることを示すが、 労働者を一人事業の特殊例と見なすことはできない。 Φ と ϕ の両方で制約が異なる。

Φ の制約。 第2.5節の六自由度のうち五つが法により制約される。 労働基準法は賃金について通貨払い、直接払い、全額払い、 毎月一回以上、一定期日払いを定めており、 時間関係は後払いに、支払主体は使用者に固定される。 状態依存性も、賃金を業績に連動させることは限定的にしか認められない。 選択できないのではなく、選択肢の集合が小さい。

ϕ の制約。 労働者について ϕprod を定義するには 限界費用が必要だが、これが定まらない。 ϕcog に至っては対応物が不明である。 第6章の三分解は労働者にそのまま適用できない。

さらに第4.2節の倒産時刻 τ は吸収状態であったが、 労働者は支払不能により消滅しない。 本稿は労働者を独立した対象として扱わない。

二点を記録しておく。第一に、月給後払いが標準であるため κL > 0 が支配的である。給与の支払サイトは通常15–45日であり、 仕入債務と同じ桁の与信を労働者が企業に供与している。 式(3.8)の第三項に κL が含まれることを明示すべきである。

第二に、雇用契約は信用の帰属を組織に置く代わりに κ の安定を買う取引でもある (第8.7節)。これはカタログの言葉では次のように書ける。

労働者は 5-1(成果報酬、高分散)を避けて 1-3(後払単発、低分散)を選び、 対価として公開型信用の蓄積を放棄している。

これは命題4.10と同型であり、 安定を選ぶ者は将来の請求権を割り引いて手放している。

7.10.2 複合契約:既存類型の合成

B2B の実際の契約は複数類型の合成であることが多い。 これはカタログの限界ではなく、正しい使い方である。 命題3.9より κ は Φ の並置に対して加法的であるから、 複数の類型を並べた記述は κ の水準で意味を持つ。 ただし注3.10のとおり分解は一意でない。 同じ κ を与える類型の組は複数あるから、 類型は Φ の生成系であって基底ではない。 割り当ての手続きは注7.2に定めた。

7.10.3 請求権の流通:枠組みの外にある

トークン発行のように、π が将来の δ に対する請求権として それ自体流通する形式は、依然として扱えない。

式(2.8)の Φ : Δ →Π は、 履行と決済が同一の相手方との間で対応することを前提としている。 請求権が第三者に転売されると、履行を受ける主体が事後的に変わる。 これは定義域の問題であり、N を固定した第2章の設定では表現できない。 枠組みの拡張を要する。

7.11 現実企業は Φ の束である

規模の大きい企業は通常、複数の族にまたがる Φ を並行して運用する。 κ の符号が族ごとに異なるため、企業単位で CCC を計算すると 異符号の混合平均を観測することになる。 系5.19より、その平均は売上速度による加重平均であり、 族ごとの CCC の単純平均ではない。 第12.10.3節の結論を再掲すれば、観測単位は企業ではなく Φ に置くべきである。