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v0.28.9 — 本稿は建設中です。理論の構成、命題、実証の結論はいずれも変更されうるものです。概要

Chapter 2
ビジネスモデル:Φ とキャッシュフローの生成

2.1 基本集合

定義 2.1 (基本集合). 以下の四つを基本集合として置く。

N = {0,1,…,n} 主体の集合。0は対象企業 (2.1) T = [0,H] ⊂ ℝ≥0 時間 (2.2) (Ω,F,{Ft}t∈T , ℙ) 状態空間とフィルトレーション (2.3) 𝒟 履行(財・サービス)の空間 (2.4)

主体の内訳は、顧客 C、仕入先 S、資本提供者 K、労働 L、 リスク引受の第三者 R を想定する。 これらは N の部分集合であり、N ∖{0} を覆う。 個々の主体は i ∈ C のように N の元として書く。 類別をそのまま添字にしたときは、その類別に属する主体についての和を表す。 たとえば κC = ∑ ⁡ i∈Cκi である。 R は自由度(3) が支払主体を移す先であり、第2.6節の移転にあたる。

規制や商慣行は現金の相手方ではないため N に含めない。 これらは Φ が選べる範囲を外側から限る制約であり、 第6.3節の制度層で扱う。

2.2 スケジュールと空間

主体 i との関係を、二つのスケジュールの組として記述する。

δi : T ×Ω →𝒟 履行(企業から i への価値の引渡し) (2.5) πi : T ×Ω → ℝ 決済(i から企業への支払い) (2.6)

評価写像 v : 𝒟 → ℝ により履行を貨幣単位で測る。

これらの組の全体を空間として置く。

Δ ={(δi)i∈N|δi : T ×Ω →𝒟},Π ={(πi)i∈N|πi : T ×Ω → ℝ} (2.7)

Δ を履行スケジュールの空間、Π を決済スケジュールの空間と呼ぶ。

2.3 履行から決済への写像

定義 2.2 (ビジネスモデル). 式(2.7)の Δ と Π を用いて、 ビジネスモデルを写像

Φ : Δ→Π (2.8)

として定義する。

注 2.3 (Φ と ϕ は別の対象である). 大文字の Φ は式(2.8)の写像そのもの、すなわち構造を指す。 小文字の ϕ は、その構造のもとで一期間に生じる余剰の大きさを指す量であり、 第6章の式(6.1)で三つの源泉に分解して定める。 Φ が履行と決済の対応の形を決め、ϕ はその形のもとで企業に残る取り分を測る。 本稿では両者を結ぶ一般の関係式を与えない。 Φ の選択が ϕ の各項をどう動かすかは、 第6章で項ごとに個別に論じる。

2.4 キャッシュフローの生成

式(2.8)の Φ が定まれば、主体ごとの決済が定まる。これをキャッシュフローと呼ぶ。

定義 2.4 (キャッシュフロー). 履行 δ ∈Δ を一つ定めると、Φ はその像として決済の組 π = Φ(δ) ∈Π を返す。Π の元は主体ごとの関数の組であるから、 その第 i 成分 πi は T ×Ω 上の関数である。これを

X(i,t,ω) ≡πi(t,ω),π = Φ(δ) (2.9)

と書く。X(i,t,ω) は、状態 ω において時刻 t に主体 i との間で生じる 正味の現金移動を表す。符号は企業への流入を正とする。 仕入先や労働への支払いは πi < 0 として表される。

Φ が受け取るのは履行の組 δ ひとつであり、 t や ω を引数に取らない。 時刻と状態への依存は、 Φ が返した πi が持つ。

X は Φ の像である。 Φ を差し替えれば、 同じ履行 δ に対して異なる X が生じる。これが本稿の中心的な操作である。

式(2.9)は「誰が・いつ・どの状態で」の三つの添字を持つ。 通常の財務諸表は、この対象を添字方向に潰した射影である。

財務諸表 操作

内容

損益計算書 t 方向の集計

発生主義による調整を含む

貸借対照表 t を固定した断面

未決済の残高

キャッシュフロー計算書 t 方向の差分

現金の実際の移動

表 2.1: 財務諸表は式(2.9)の三重添字を潰した射影である。

注 2.5 (本稿の量はすべて水準である). 式(2.9)以降に導入する量は、κi、CCC、ϕ を含めてすべて水準である。 時点 t における値として定義され、変化を扱う記法を持たない。

これは記述上の選択ではなく制約である。 第IV部で繰り返し確認されるとおり、 これらの量の水準は業種や商品形態によって二桁の差を持ち、 横断比較は解釈できない。読めるのは同一対象内の時系列変化のみである。

本稿は変化を扱う理論的な道具を持たず、 実証の各局面で個別に対処している(第19.4.3節)。

例 2.6 (三重添字の具体化). 月額1,000円のサービスを100名に提供する事業を考える。 顧客 i ∈ C が毎月末に支払う場合、

X(i,t,ω) = { 1,000t ∈{1,2,…}(月末) 0 otherwise

であり、ω には依存しない。一方、解約が生じうるならば ω は解約時刻を含み、X は ω に依存する。

仕入先が一社であれば S = {s} であり、サーバ費用を月額30,000円として X(s,t,ω) = −30,000 である。類別で書けば ∑ ⁡ i∈SX(i,t,ω) = −30,000 に等しい。

2.5 Φ の自由度

式(2.8)の Φ を規定する自由度を六つに整理する。 式(2.9)の三つの添字に対応するものと、そうでないものに分かれる。

添字を動かすもの。

(1)
時間関係:supp ⁡ (π) と supp ⁡ (δ) の前後関係。t を動かす。κ の符号を決める。
(3)
支払主体:受益者本人か、第三者か、反対側の市場か。添字 i を動かす。
(4)
状態依存性:π が ω に可測か。ω を動かす。リスクの所在を決める。 これは第4章の 𝒢 可測性そのものであり、 Φ の設計者が自由に選べる範囲は 𝒢 が限る (命題4.1、注4.2)。

写像の関数形を決めるもの。

(2)
依存形式:π が δ にどう依存するか。 線形な形式は一つの族にまとめられる。
π = F + pδ (2.10)

F は履行量によらない部分、p は単価である。 p = 0 が定額、F = 0 が従量、いずれも 0 でない場合が二部料金にあたる。 線形でない形式として成果連動 π = h(y) がある。 y は成果、h は成果を決済に変える関数であり、 y が観測できるかは自由度(4) に属する(第4章)。

注 2.7 (F の書体と c の用法). 式(2.10)の F は料金の固定部分であり、 状態空間の σ 加法族 F とは別の量である。書体で区別する。

c は本稿では限界費用を表し、つねに引数を伴って c(δ) と書く(定義2.14)。 定額料金には F を用いる。

定義域 Δ の側の性質。

(5)
権利と行使の分離:契約上の権利 δ¯ と実現利用 δ が乖離しうるか。
(6)
反復性:単発か、自動更新か、コミット期間つきか。取引頻度 ν を決める。

注 2.8 (三群の区別). (1)(3)(4) は式(2.9)の添字を動かす。すなわち 同じ δ に対して X の置き場所を変える操作である。 (2) は写像そのものの形を決め(注2.7)、(5)(6) は定義域 Δ の側の性質である。

第2.6節のリスク操作の三分類は、(1)(3)(4) を動かす操作にあたる。

このうち (1) と (2) が、κ の符号と認知余剰の生じる余地をそれぞれ決める。 この二軸で Φ の空間を粗く分割できる(図2.1)。 二つは別の群から取っている。 (1) は添字を動かし、(2) は関数形を決める。

分割の二軸と、族の判定に用いる自由度は別である。 第7.9節の判定順序が用いるのは (3)(4)(6) であり、 (1) と (2) は現れない。前者は Φ の空間を粗く見るための軸、 後者は観測された Φ を一意に割り当てるための規則であって、目的が異なる。

図 2.1: Φ の二軸分割。縦軸が κ の符号を、横軸が認知余剰の生じる余地を決める。

2.6 リスク操作の三分類

添字が三つであることから、X に対する操作も三つに限られる。 この対応づけは本稿の整理である。

操作する添字 名称 不変量 例
t 繰延 (timing) 総額 前受金、割賦、リース
i 移転 (transfer) 総額と分散 ファクタリング、保険購入
ω 集約 (pooling) 総額 保険引受、分散投資
表 2.2: リスク操作の三分類。操作する添字と不変量、代表例。

この三つは、注2.8のとおり自由度 (1)(3)(4) を動かす操作である。 繰延が t を、移転が i を、集約が ω を動かす。

三つのうち、分散を実際に減少させるのは集約のみである。 これは確率論の帰結であり、Φ の構造とは独立に成立する。 本稿が導いたものではなく、引用である。

命題 2.9 (集約による分散低減). 分散 σ2、相互相関 ρ の同分布リスク X1,…,Xn に対し、 ρ が n に依存しないとき、

Var ⁡ [1 n∑ j=1nX j] = σ2 n (1 + (n − 1)ρ) →n →∞ρσ2. (2.11)

証明. 共分散の双線形性より

Var ⁡ [∑ jXj] = ∑ j Var ⁡ [Xj] + ∑ j≠k Cov ⁡ [Xj,Xk] = nσ2 + n(n − 1)ρσ2.

両辺を n2 で割れば第一の等式を得る。 n →∞ のとき σ2 n → 0、 (n−1)ρσ2 n → ρσ2 であるから極限が従う。 □

注 2.10 (独立性は有限の資源である). 式(2.11)の極限は ρσ2 であり、ρ > 0 である限りゼロにならない。 集約は独立性を消費する操作であり、独立性は有限の資源である。 地震保険の引受制限、プラットフォームの景気感応性、 金融機関のシステミックリスクは、いずれもこの式の同じ項に由来する。

注 2.11 (ρ の内生性). 命題2.9は ρ を外生的な定数とした。この仮定は成立しにくい。

ρ が内生的になる機構は、集約の対象が枯渇することではなく、 集約という行為そのものが相関を生むことにある。 [30] の例が明快である。 二つの主体が二つのリスクを等分に引き受けて完全に分散すると、 各主体の個別の破綻確率は下がるが、 両者のポートフォリオは完全に相関する。 リスクの性質は変わらないのに、主体間の相関が生じる。

したがって ρ は集約者の数と保有の重なりの関数であり、 式(2.11)の極限 ρσ2 は集約が進むほど大きくなりうる。 証明は形式的には正しいが、 適用範囲は集約者が少数で保有の重なりが小さい範囲に限られる。 本稿はこの依存を扱わない(第19.4.1節)。

注 2.12 (集約の社会的最適性). 注2.11の機構は、個別と全体で最適が食い違うことを含意する。 [19] は、仲介者にとって最適な分散が社会的には最適でなく、 リスク分担を制限したほうが望ましい条件を導いている。

本稿は個別事業者の視点で書かれており、 Φ の選択が系に与える影響を扱わない。 第II部の族5-4(保険引受)と族6-2(エスクロー)は 集約を業とする類型であり、この論点が直接効く領域である。

例 2.13 (相関が効く速さ). σ = 100、ρ = 0 のとき、n = 100 で標準偏差は 100∕ 100 = 10 に下がる。 一方 ρ = 0.3 では

Var ⁡ = 1002 100 (1 + 99 × 0.3) = 305.5,標準偏差 ≈ 17.5.

n →∞ でも標準偏差は 0.3 × 100 ≈ 54.8 より下がらない。 相関 0.3 という穏当な値でも、分散低減の効果は半分以下に落ちる。

2.6.1 技術が定める費用

履行 δ を生むには費用がかかる。本稿は投入の内訳を扱わないので、 生産の技術は履行から費用への対応 Cprod としてのみ現れる。

Cprod は Φ とは独立に与えられる。 同じ技術に対して異なる Φ を置くことができ、 逆に同じ Φ を異なる技術の上に置くこともできる。 本稿が動かすのは Φ であって技術ではない。

定義 2.14 (費用の分割). 総費用を次の二つに分割する。

C(δ,Φ) = Cprod(δ)⏟技術が定める + Cadmin(Φ,δ)⏟契約が生む (2.12)

第一項について

Cprod(0) 固定費 (2.13) c(δ) = dCprod 𝑑𝛿 限界費用 (2.14)

と書く。

注 2.15 (c(δ) に形状を仮定しない). 本稿は c(δ) の単調性も凸性も仮定しない。 費用構造は業種ごとに大きく異なり、一つの形状を置くと適用範囲が狭まるためである。

代償として、最適な履行量 δ を内点で定めることができない。 式(2.17)の容量制約は上限を与えるが、 その手前で費用と価格が釣り合う点は本稿の仮定からは出ない。 以降で δ の水準が問題になる箇所(第8章の配分など)では、 制約の端点として扱う。

この分割に意味があるのは、第二項が実在するからである。 Cadmin は Φ の六自由度(第2.5節)のすべてから生じる。

種別 経路

内容

設定 締結

Φ を相手と合意する費用。定型契約では小さく、個別交渉では大きい

運用 測定

π = pδ では δ の計測と課金が要る

権利管理

δ¯ の管理。会員資格、残高の追跡

継続処理

自動更新、解約処理

履行確保 回収・貸倒れ

τC > 0 では請求と督促、回収不能の損失

検証

π = h(y) では y の確認

紛争

契約に書けても争いは生じる

外部委託 仲介

決済、配信、集客の代行

表 2.3: Cadmin が生じる経路。

注 2.16 (前受にも費用がかかる). τC < 0(前受)は回収費用を要しないが、 預り金の管理、返金対応、規制対応が生じる。 第8.5節で扱う資金決済法の供託義務がその例である。 τ の符号によらず Cadmin > 0 である。

注 2.17 (Cadmin を無視する条件). 本稿は以下、Cadmin を明示しない。無視できる条件は二つある。

(1)
運用がシステム化されている。 測定・権利管理・継続処理は、仕組みが構築されていれば 取引あたりの限界費用がゼロに近づく。
(2)
仲介を用いない。 仲介費用は取引額に比例し、システム化では消えない。 第17章はこの費用を測定し、 注17.1で Cadmin の種別に対応づける。

条件が成立する範囲は限定的である。 第8章の一人事業と第IV部の族2では成立するが、 第16章が扱う小規模企業では成立しない。 請求と督促が人手で行われる場合、Cadmin は無視できない。

この省略の代償を明示しておく。Cadmin を落とすため、 本稿はΦ の選択が費用を通じて ϕ に跳ね返る経路を扱えない。 式(2.12)は以降で使わず、Cprod のみが現れる。 τi を延ばす契約変更が回収費用を増やす、といった対応関係は、 本稿の枠組みの中では書けない。

以上より、費用構造が同一でも異なる契約形態を選べるという自由度が、 ここでいうビジネスモデルにあたる。 ただしこの自由度は完全ではなく、Φ の選択は Cadmin を通じて費用に跳ね返る。 Cprod が現れる箇所は注2.19にまとめた。

注 2.18 (Φ の切り替え費用と待機の価値). 本稿は Φ を選択変数として扱うが、 これは切り替え費用をゼロと置くことに等しい。 一度選んだ Φ を別の Φ に変える費用は Cadmin の設定項に属し、 一般にゼロではない。

不可逆投資の理論([8])によれば、 決定が不可逆であるのは物理的に取り消せないためではなく、 取り消しの費用が高く特定の経路に固定されるためである。 切り替え費用を Csw、Φ の変更で得られる余剰の増分を Δϕ とすると、

Csw = ∞

変更できない。最初の選択が確定的

Csw ≪Δϕ

本稿の仮定。Φ は自由に選べる

Csw ∼Δϕ

選択を遅らせることに価値がある

表 2.4: 切り替え費用 Csw の大小と Φ 選択の自由度。

第三の場合には待機の価値が生じる。 不確実性が解消するまで Φ を確定させないことが最適になりうる。 本稿はこの含意を扱わない。第8章の一人事業では 切り替え費用が相対的に大きいため、この論点は無視できない可能性がある。

注 2.19 (C が現れる箇所). 定義2.14の量は以降で繰り返し用いる。 ϕprod は c(δ) の優位として定義し(第6章)、 限界費用がゼロに近いことが容量制約を緩める条件となり(第8章)、 C と Φ がともに事前指定できることが複製可能性の条件となる(第9章)。 物理層はこの C の性質を指す(第6.3節)。

例 2.20 (同一の Cprod、異なる Φ). 同一の業務用ソフトウェアを、次の三通りで提供できる。

Φ 決済 κC(期央、顧客1名)
買切り 導入時に240,000円 −120,000 円
年額 毎年初に60,000円 −30,000 円
月額後払 毎月末に5,000円 +2,500 円
表 2.5: 同一の Cprod に対する三通りの Φ と κC。

技術は同一であり、限界費用も同一である。異なるのは Φ のみだが、 κ の符号が反転し、必要な運転資本が変わる。

2.7 権利と行使の乖離

自由度 (2) と (5) は連動している。π が δ に比例する場合、 顧客は使った分だけ支払うため、権利と行使は一致する。 π が δ と独立な場合にのみ、両者が乖離しうる。

式(2.8)の自由度(5) が立つとき、次を定める。

定義 2.21 (権利と行使). 契約が顧客に与える上限を δ¯、実現する利用を δ とする。 乖離量を δ¯ − δ ≥ 0 と書き、これに由来する粗利を

ϕcog = p ⋅ 𝔼[δ¯ − δ] (2.15)

と定義する。

注 2.22 (乖離が生じる契約形態). 式(2.15)が正となりうるのは、契約が δ¯ を明示的に定める場合に限られる。

π(t) = pδ(t) の従量契約では、顧客の支払総額は p∫ δ である。 利用しなければ支払いも生じないため、契約は上限 δ¯ を定める必要がなく、 差 δ¯ − δ が定義されない。

π が δ に依存しない定額契約では、 対価が利用量と無関係に定まるため、契約は権利の範囲 δ¯ を明示する。 このとき δ < δ¯ が実現しうる。 二部料金 π = F + pδ では、固定部分 F に対応する範囲についてのみ乖離が生じる。

これは定義2.21の帰結であり、独立した主張ではない。 δ¯ が外生に与えられることを前提とする。 顧客がメニューから δ¯ を選ぶ場合は同時決定となり、 差を取ることの意味が変わる(第19.4.1節)。

注 2.23 (容量制約の一般形と本稿の簡略化). 供給側の容量には、施設の収容人数、設備の台数、人員の可処分時間などが該当する。 第2章の定義より δi は T ×Ω 上の関数であるから、 容量制約の一般形は各時刻で評価される。

∑ iδi(t,ω) ≤Cap(t,ω)∀ ⁡t ∈ T,∀ ⁡ω ∈Ω (2.16)

容量それ自体が時刻に依存するのは、営業時間、設備の稼働時間帯、 人員の配置が時間によって変わるためである。

本稿では以下、Cap を定数として扱う。 すなわち式(2.16)を期間全体で積分した

∑ iδi ≤Cap (2.17)

の形で用いる。δj は総量を表す。

この簡略化は、需要の時間分布が会員間で概ね等しく、 かつ容量が時間帯によらず一定である場合に正当化される。 両者が成立しない場合、拘束するのはピーク時刻のみであり、 式(2.17)は必要以上に強い条件となる。 第16章では、この簡略化が現実と合わない観測を扱う。

命題 2.24 (容量制約下の会員制). 式(2.17)の容量制約が存在し、 会員数 n と平均利用 𝔼[δ] が独立に決まるとき(m は粗利率に用いるため会員数は n と書く)、 定額会員制 πj = F が実行可能であるためには

∑ j𝔼[δj] ≪∑ jδ¯j (2.18)

が必要である。すなわち低稼働が実行可能性の条件になる。

証明. 会員数を n、各会員の契約上の上限を δ¯ とする。 全会員が権利を行使すれば需要は nδ¯ となる。 実行可能性は n𝔼[δ] ≤Cap を要求する。 一方、会員が δ¯ に価値を感じて加入している以上 nδ¯ > Cap が通常成立する (そうでなければ容量制約が拘束していない)。 両者を合わせると 𝔼[δ] ≤Cap∕n < δ¯ を得る。 □

例 2.25 (二種の会員制). 定員100名の施設が1,000名の会員を持ち、月会費8,000円を課すとする。 δ¯ を「毎日利用可能」とすれば nδ¯ は容量を大きく超える。 実際の平均利用率が10%であれば 𝑛𝔼[δ] = 100 で制約はぎりぎり満たされる。 利用率が30%に上昇すると事業は物理的に破綻する。

対照的に、会費が仕入割引の権利を与える形態では容量制約が存在せず、 利用率の上昇は仕入規模の拡大を通じて有利に働く。 外形上は同じ族2-1 に属するが、実行可能領域の形が異なる。